かがやきニュース 「新型コロナ、診察することで検査が活きる」(2022年5月9日)で報告させていただいた内容について、他の医療機関の先生からの問合せや同様の所見の学会報告の知らせなどをいただきました。直近の集計結果を追加で報告させていただきながら、所見の変化や見られやすい背景なども交えながら考察していきたいと思います。
多くの感染者の咽頭所見を観察すると、咽頭後壁に赤く腫れたリンパ濾胞や咽頭の側壁が赤く浮腫状に肥厚している方に遭遇します。所見の集計を始めた2022年の冬期から春にかけて、これらの特徴的な所見が多く見られました。その後、特に最近の状況はどうでしょうか。
上段(2022年1月から5月2日の集計)に比較して、下段に示した2024年の5月から10月にかけての集計では特徴的な所見を有するケースが減っています。ただしこの期間ではPCR検査は行わず、抗原検査のみでの確認のため、抗原検査陰性の中に感染者が多少は潜んでいる可能性は否定できません。抗原検査のPCRに対する感度を80%程度と低めにみても上段と下段での感度の違いは明らかです。その結果、陽性的中率も低くなっています。なぜこのような現象が起きているのでしょうか。
まずは2024年3月までの集計において、年齢による違いが認められるのかどうかをかを確認したいと思います。それは以前から、インフルエンザの流行の時にも感じていましたが、赤く腫れたリンパ濾胞は年齢の若い10代や20代で顕著に認めれていましたが、高齢者ではあまりそのような所見を見る機会が少ないからです。
上段の30歳未満と下段の60歳以上で比較すると、60歳以上では特徴的な所見が見られる方が減り、その結果感度が低くなっています。ただし高齢者で見られたときの陽性的中率は.92.9%とかなり高くなります。
次に発熱の程度による違いはあるのでしょうか。39度以上と高熱が出たひとと37度未満の発熱がなかったひととで比較してみます。。
上段の39度以上のひとと比較して、下段の37度未満では感度に明らかに差があります。高熱がでているひとで特徴的な所見がみられることが多く、陽性的中率も高いことが判ります。
以上より、若くて高熱が出ている患者さんで見られやすく、高齢者では見られにくいものの、もし見られたときには、新型コロナウイルスに感染している可能性が高いと言えます。では最初にお示しした2022年前半と2024年最近の比較で咽頭所見の感度に差が出たのは、集計した母集団において年齢割合や発熱の程度に差があったのでしょうか?確認したところ共に有意な差は認められませんでした。
そもそもインフルエンザ濾胞とも呼ばれているこの現象は、アデノウイルスやエコーウイルスなどでも見られることを、佐久間孝久先生が「アトラスさくま 丸善出版」の中で報告されています。特定のウイルスそのものに限定されているのではなく、鼻咽頭を中心に増殖するウイルスに対する感染者の免疫反応現象を見ているものと考えられます。ちなみに今回の集計において、インフルエンザ抗原検査が陽性であったひとは、たとえコロナの抗原検査が陽性でも集計からは外しています。
そして新型コロナウイルスの株によって全身症状のでやすさに違いがあり、BA.2とBA.5が主に流行していた2022年前半とKP.3系統が主流となった最近では咽頭の所見に差がでる可能性も考えられます。中久保らの報告(Lancet Infect Dis 2030;23:1244)の中で、ワクチンの接種回数(2回以下と3回以上)や過去の感染歴によって、全身症状と上気道症状に差が認められたことが述べられています。接種回数が多いほど全身症状が減る傾向があるようです。そしてワクチン接種回数が増えることで減少していた全身症状も、ワクチン接種後の時間経過とともにその効果が減弱することも報告されています。
特徴的な咽頭所見の減少傾向は今後どのように推移していくのでしょうか。インフルエンザウイルスのように宿主側の免疫を揺さぶるような株の変化が繰り返されることで、特徴的な咽頭所見を若年者を中心に継続的に引き起こしていくことになるのでしょうか。もしくは2019年以降の新型コロナウイル流行にともない、追随して開発されたワクチン接種の継続によって牙をむいていたこのウイルスが、感染性は保ちながらも2019年以前の普通感冒を起こすウイルス群の中の一つであるコロナウイルのような存在へと徐々に変貌していくものでしょうか。今後の新型コロナウイルスの流行状況とともに咽頭所見の観察を継続することで見えてくるものがあるのではないでしょうか。
感度は病気に罹患しているひとの中(今回は抗原検査陽性者)で、咽頭に特徴的な所見がみられたひとの割合、特異度は病気に罹患していないひとの中(抗原検査陰性者)で、特徴的な所見を認めなかったひとの割合になります。そして陽性的中率は特徴的な所見がみられたひとの中で、 実際にその病気に罹患しているひと(今回は抗原検査陽性者)の割合です。陰性的中率は特徴的な所見を認めなかったひとの中で、 、実際にその病気に罹患していないひと(今回は抗原検査陰性者)の割合となります。なお、陽性的中率は有病率(今回は抗原検査陽性者の割合)の影響がでます。有病率が低いと陽性的中率も下がることになります。
2024年11月29日