最近急にもの忘れがひどく、今までできていたことができないと心配されて親御さんを外来へ連れてこられることがあります。
症状の波が目立ち、画像検査では認知症の特徴的所見がほとんど見当たらないのです。実はその病態はせん妄が原因で、症状が大変似ていて、かつ認知症に合併していることもあります。
せん妄の場合、症状の変動が目立つことと、注意力に動揺がでやすい傾向がみられます。幻聴はありませんが、家族などの幻視がときに見られるため、レビー小体型認知症との鑑別が必要になります。
せん妄と言えば、入院中の不穏がよく知られていますが、入院していなくても発症し、かつその症状が数日では治まらず、高齢者では数週間以上にまで遷延することがあります。そしてせん妄にはよく知られている過活動型以外に見逃されやすい低活動型、さらにはその両方の特徴を持つ混合型が存在します。低活動型の場合には、うつ病とまぎらわしいケースやうつ病の治療中に発症することもあります。
せん妄を発症するには3つの要因が関与しています。高齢者や認知症のひとは発症しやすい要因(準備因子)があり、手術や薬剤などが引き金(直接因子)となり、さらには睡眠障害や不安、疼痛などが促進因子となって症状が顕著になったり、また遷延することにつながります。
準備因子を取り除くことは不可能です。直接因子や促進因子の中でコントロールできるものを見つけ出して、取り除いていくことが重要です。
せん妄を起こしやすい薬剤にも注意が必要です。変更可能なものは他の薬剤への変更を極力行っていくべきでしょう。
高齢者で残念ながら、ベンゾゾアピン系の眠剤や安定剤などを服用されている方を多くみかけます。深睡眠の増加作用があり、せん妄の治療薬としても使われるトラドゾンへの変更を試みるべきでしょう。慢性疼痛に対して、長期にわたりトラマドール、プレガバリンなどが投与されていることがあり、注意が必要です。
また高齢者は市販薬にもせん妄を起こしやすい成分が含まれているので、気をつけなければいけません。d-マレイン酸クロルフェニラミンやプロメタジンなどが含有されていないか、薬剤師さんによく相談してから購入するようにしましょう。
2023年8月17日