新型コロナウイルス感染の5類移行ともにポストコロナという言葉があたかも明るい兆しのように使われています。ただし今回の対応変更は我々人間社会の直近の幸福感の享受のためのものであり、ウイルスそのものの系統とその性質、そして今後の変異すべてを分析できた結果ではありません。
日々の新規感染者数がニュースで報道されなくなったことで、より一層忘却への歩みを進めたと言っても過言ではないでしょう。
しかし今なお、感染症に対する弱者が一緒に生活していることを決して忘れてはいけません。
30歳代の人の重症化率を1とすると、80歳以上では70倍にも及びます。
当院での4月の検査陽性率(陽性者数/検査施行者数)は19.4%で、5月8日の5類移行後の検査陽性率は35.3%とより高くなっています。すなわち5類移行後も感染者数が減少してはないことがみえてきます。
2019年12月に中国で始まって、翌年の3月にはWHOのパンデミック宣言にまで至りました。
世界のグローバル化、交通網の発展とともに感染症も一昔前とは違うスピードで拡散する時代です。
さらに未開発地域での都市開発によって、動物と人との距離が狭まり、接点が広がったことで新たな人獣共通感染症がますます起きやすい世界環境になっています。
国内に持ち込まれた感染症は「病院」へもさらには「長期ケア施設・介護施設」、「在宅」へまでも 連鎖して拡散していく医療関連感染(HAI:healthcare-associated infection)となっていきます。そこには多くの免疫力の弱い人が病気と闘いながら生活しているのです。
今回のパンデミックを経験して、我々は何を学んだのでしょうか?さらなるパンデミックを迎えたときに具体的な行動の変化にどのようにつながっていくのでしょうか?
医療者を含めて我々ひとりひとりが、もう一度よく考えてみる必要があります。
マスクをした女子学生が歩いている写真は、今から100年以上前のスペインインフルエンザの大流行のときのことが記載された書籍 速水融著「日本を襲ったスペインインフルエンザ」を取りあげた2020年4月の新聞記事です。
「忘れられたパンデミック」というサブタイトルが書かれています。
今から100年後、いやもっと早い未来に新たなウイルスによる感染症による大流行が必ず起きることでしょう。その時に「忘れられた新型コロナパンデミック」というタイトルが飛び交っていないことを切に願います。
2023年6月1日